和歌と俳句

春の夕

金殿に灯す春の夕かな 虚子

ふり出してやまぬ雨なり春の夕 万太郎

晶子
旅人を河原の鴉見騒ぎぬ能野の路の春の夕ぐれ

晶子
とけ合はぬ絵の具のごとき雲ありて春の夕はものの思はる

千樫
ふるさとの春の夕べのなぎさみち牛ゐて牛の匂ひかなしも

雪つけし飛騨の国見ゆ春の夕 普羅

春夕べ烏は朱けに染まり飛び 茅舎

白秋
成城十九番地月まどかなる春夕の暮れつつはありて明りつつあり

落葉松に焚火こだます春の夕 普羅

奥山の枯葉しづまる春夕 普羅

ふる雨のおのづから春の夕かな 万太郎

まどろみゆ覚むれば春のゆふべかな 草城

竹林を童子と覗く春夕べ 三鬼

らちもなき春ゆふぐれの古刹出づ 槐太

すでに春のゆふぐれのそを告ぐる鐘 槐太

曳きなやむ春ゆふぐれの坂の馬 槐太

風車止まりし色や春の夕 汀女

春夕べ木を挽く音の少しして 汀女

春夕べ襖に手かけ母来給ふ 波郷

山門も石段も春夕かな 万太郎

春夕べ鳴り出づる鐘は清見寺 風生

古きよき渡佛の話春夕べ 汀女

父に母に子らはしづまり春夕べ 汀女