とけ合はぬ絵の具のごとき雲ありて春の夕はものの思はる
自らのものに見入りし顔のごと思ふ小き桜草かな
病むよりも淋しき恋をなすよりも哀れにちれり山ざくら花
遠近に羽子の音きくうたたねは蓬来などにあるここちする
常磐木の苔づける幹うちならぶ門の中なる春のそよ風
元朝や金の色なる薔薇の花目には見えねど数しらず咲く
早春の匂ひうち散るここちするゆききの人の沓の音かな
山川のなほきはやかに寒き色なす正月の紅梅の花
しづかなる雨もよひなる正月に底ひもしらぬ白き梅咲く
家なるも外なる音も元日は皆なつかしと思ひぬるかな
目もあやに金色の水流れきぬ第一の日の春の太陽
正月やしもばしらさへいつしかと春のものなるここちして踏む
七人の子ぞうちつどふ正月にすでに桃李の風きたり吹く
冬の来ぬ炉を置くごとく温室の花をば据ゑてわれは物書く
寒げにも薄墨色の海布のくづのある渚見て雁のわたりぬ
稚児のごとこころよげにもふくらみて水仙の葉の抜け出でし土
十二月粘土が指をよごすよりわびしき雨の降れるひねもす
御仏の円光に似る水仙よ亡き親めきてこひしき花よ
夕雲の中へ隣の竹棹の端はしたなくいでて寒かり
枝のまま枯れたる菊に雪降れりあぢきなさなど紛れつる頃