和歌と俳句

篠原梵

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他の線路せり上り草の土手となる

目の高さを蕎麦の赤茎窓を過ぐ

葉のみどりかたちうしなひ窓を過ぐ

窓にふれアカシアの花露をのこす

帽子膝に翠微のけはひバスに満つ

バス果てぬ春蝉ここだ鳴く中に

東京近し家立暑く蜜になりゆく

鳳凰の清しき音の近づきぬ

花火待つ人のうしろに加はりぬ

影暑くなりし佐原を発ちにけり

やや青きバナナの房ゆちぎりあふ

夏蜜柑の二ふくろ三ふくろゆきわたり

ひとり藉くにすこしあまる草の株なり

ラムネのむ泡くちびるをはじくなり

団欒へ秋立つまでとかへり来し

母とあるやの立ちゆき来鳴くなど

無花果のジャムをつくるとうちまじり

夕簾捲くはたのしきことの一つ

三年まへ今も並木のいてふ萌ゆ

人皆の春服のわれ見るごとし

剣襟の尖目を離れず汗ばみあるく

ソフトわが顔に合はざる日ならべぬ

青麦野一路ふるさとびととなる

早苗田に垣も映れり家も映れり

明け易く人隈ふかき目を持てる

母者には汗によごれしもの土産

ともに飲むにビールトマトを冷やせかし

母はわが顔の夏痩のみを言ふ

縁暑き眼鏡してをり汗と光る

縁暑き眼鏡りりしく日焼けせり

新しき明石のきもの着て見する

やはらかき紙につつまれ枇杷のあり

走り柚子小さき枝の葉の中に

買ひをるやひともさそはれ柚子を選る

紙の網あやふくたのし金魚追ふ

裸の燈露けく吊るし草木売る

虫籠の細しさよ燈にうちら小暗く

箱の中犇々ありしかたち蜜柑に

リュックサックごとやすらへば峰雲真上

夕立のまへの木騒にテント張る

うすみどりわれらのテント尖り立てり

葉さやぎの来てはテントを膨らめぬ

キャムプファイヤ木颪からだを廻り入る

頭影テントをなかば占めうごく

テントねむる露の夜闇にかたち返し

藉き草のかぐはしさに馴れつめたけれ

露の夜のテントの屋根ぞ彎り垂る

青葉風飯盒に煮ゆる音さわがす