和歌と俳句

篠原梵

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芝若し本も手もふところに入れ

陽炎うてゐる丘の肩見つけたり

スプーンにつぶす苺の種子微かに

日を仰ぎ得るほど欅芽ぶきたり

灌仏の肩がかわくにいくたびも

たそがれる窓を山吹退りゆく

桐の花空のしろきに翳り立つ

橡の花見つけつつゆくたのしみある道

わが狭庭葉洩れ日と葉の影うつくし

釣るをたそがれの瀬のとりまける

背ぢゆうに寐押しするなるセルざわり

葉桜の中の無数の空さわぐ

セル着れば勤めの疲れしづかに出でぬ

舗道なるさみだれの空の中に立つ

燈をあつめ菖蒲のみどり燈かげ抽く

道の上の葉洩れ日からだを遡り次ぐ

ぶだうの房海松のごとくなり皿に

顔入れる昨日のシャツのうすしめらへる

蝉音あふれ出る高槻を仰ぎゆく

まだ灯せるはわれのみなるか蝉来つ

たばこの火蚊帳のきり取る闇に染む

麻の服風はまだらに吹くをおぼゆ

黝く灼けわが影われに先んじゆく

胸底に柿の実の冷え融けてゆく

深々と湯に沈みつつ鳥肌しゐつ

蒸しタヲル顔にあり冷えし斜めの身

蒸しタヲル脱けられ顔に秋気しるし

野分中佐原はそれと見えて来し

水尾の中東風立ちそめにければ去る

書きゐつつ白き小菊とともにあり

あすなろうはコスモスのなきあとに立つ

見をるうち菊のましろさ眼より溢れぬ

わが垣も八ツ手の花のたわわ毬なす

脚をつたひて凍てし靴音頭に来る

指の皺よごれやすけくさむき日々

手の背むらさき揉みて白けし中より現る

林間へマスクの肩をならべけり

淡雪に窓を濡らししバスの来る

うす霜の硝子戸の空とけて落つ

霜枯れの檜葉を境に家つらなれり

冬の木の幹のけはひの闇に満つ

冬日照りかげるにこころ惹かれ読む

蹠裏に炬燵の柱まるくぬくめる

手袋の手を挙げ人の流れに没りぬ

橙湯さびしき目してのんでゐる

枯芝にこもる日ざしを背に吸ふ

霧の奥人いゆくわが足音にはあらじ

初春の演し物のビラにむかひ着る

寒三日月目もて一抉りして見捨てつ

東京灯りぬ金魚のごとき雲を泛べ

マグネシウムおのが煙と北風照らす

北風とおなじ速さに歩きゐしなり

オレンヂエードコップはかなし鼻を容れ

冬日の車窓に朱きあかるき耳持つ人々

木々枯れて明治の家々あらはなる

風呂敷包ぬくもり小脇腕と親し

足ばやに人等オーバー筒のごとく

鳩の群旋りつつ冬日光となる

枯芝の長きベンチにわれかぐろし

受話器の冷たさ耳に環となり有る暫し

霜夜妻子の寐息ひとつになり離る

妻子等に背向きて咳は蒲団に埋む