和歌と俳句

篠原梵

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ドアにわれ青葉と映り廻りけり

篠懸のふところくらく窓を蔽ふ

窓あれば壁蔽ふ蔦の厚みみゆ

だんだらの日覆見をれば海あるごとし

にじみたるにつつまれ総身あり

ワイシャツの袖たくし上げし一人たり

腕の腹汗ばみゐるにこだはり書く

手首なる汗の中より光りにじむ

扇風機のまはる翳りの部屋ぢゆうに

扇風機の薄透く大き円真上

扇風機の筒なす風の中にあり

扇風機に風触はる音をりをりに

扇風機の音正しくそれてゆきねむし

リフトに入る汗にほふ風とすれちがふ

麻服のおのが白さに眩み行く

歩々に汗ワイシャツ胸に附き離る

ビルの内熱ばみ颱風今さかりなり

窓あまた幌の日覆またあまた

電波ゆきかひ充てる空なりしんしん炎ゆ

ビル出でて秋風に深き呼吸し行く

夕の雨ソフトにあたり沁む音しげし

事務の部屋たばここもるに冬日太し

顔の高さまで部屋の中ぬくもりぬ

新聞に冬日あまねく標題残せる

どの窓か返す冬日に射られ行く

バスも電車も窓あけて走るやうになりぬ

バスの窓新樹たまゆらしかと位置占む

円く濃き新樹の影にバスを待つ

日盛りのところも萎ぬにバス間遠

ヘッドライト白地の人をふと捕へぬ

吊皮のひとのぬくみの環は廻す

クリーナーうごきし跡に秋塵淡し

バスを待ちマスクのほとり息の漾ふ

バス曲り現れ来べきかなた冬木せり

オーバーの肩背バスのわれを籠む

手袋の手の吊皮のかぎり下れる

寒燈に寐静まりたる扉ならぶ

手袋に放し把手のつめたさ来し

抜け往きし蒲団が壁のあかりにあり

戻るたびさむく四角きわが部屋なる

燈ともせば闇はただよふ寒さとなれり

雪の片露になりゐるオーバー懸く

懸けんとすオーバー古く持ち重りす

部屋になほ北風を戻りし耳なじまぬ

靴下のままに着物となり起ち居す

瓦斯燃ゆる音火の炭にうつる音うしろ

部屋うつろさむけみ反故のけむりをみたす

燈さむしコード斜めに頭ほとりに

膝頭机の裏のしんしんさむし

燈に読むにうしろさむざむ影の立つ