鉄道の 終点駅の 渓あひの 杉のしげみに たてる旅篭屋
あをやかに 山をうづむる 若杉の ふもとにほそき 水無月の川
多摩川の ながれのかみに そへる路 麦藁帽の おもき曇り日
揺るるとなく 青の葉ずゑの ゆれて居る 渓の杉の樹 見つつ山越ゆ
ふるへ居る 真青の木の葉 つみとりて 瞼にあつる、山はさびしも
夏の部屋、うつとりと絵本 かさねたる 膝のほとりの 朝のなやみよ
死にゆきし ひとのゑがける 海の絵の 青き絵具に 夏のひかれる
けふも晴るるか 暗きを慕ふ わがこころ けふも燃ゆるか 葉月の朝空
夏はいま さかりなるべし、とある日の 明けゆくそらの なつかしきかな
やはらかき 白き毛布に 寝にもゆく 昼のなやみか 仏蘭西へ行く
わが薄き 呼吸も負債に おもはれて 朝は悲しや ダーリアの花
うつとりと ダリアの花の 咲きて居り、ひとのなやみを 知るや知らずや
肺もいま あはき労れに 蒼むめり ダリアの園の 夏の朝の日
とほり雨 過ぎてダリアの 園に照る 葉月の朝の 日のいろぞ憂き
夏の樹に ひかりのごとく 鳥ぞ啼く 呼吸あるものは 死ねよとぞ啼く
夏深き 地のなやみか 誘惑か、朝日かなしも、ダーリアの咲く
夏の園 花に見入りて つかれたる 瞳のまへを 朝の蝶まふ