和歌と俳句

若山牧水

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いつとなく 秋のすがたに うつりゆく 野の樹々を見よ、静かなれこころ

飛べば蜻蛉の かげもさやかに 地に落つ、秋は生くこと 悲しかりける

なに恨む こころぞ夕日 血のごとし わが眼すさまじく 野の秋を見る

秋となり 萩はな咲けば おどろきて さしぐむこころ、見るにしのびず

草原は 夕陽深し、帽ぬげば 髪にも青き いなご飛びきたる

歩きながら 喰はむと買ひし 梨ひとつ 手に持ちながら 入りぬ林に

黒き虫 くろき畑の つちのかげに 昼啼いて居り ほそくないて居り

昼は野の 青き日に触れ、夜は燃ゆる ひとの身にふれ、秋は悲しき

わが眼こそ 愁ひの巣なれ、晴れわたる 秋の日かげに さびしく瞑づる

窓ひらけば ぱつと片頬に 日があたる なつかしいかな 秋もなかばなり

枯草の わが身にあはれ 血のごとく、夜深き市街、雨落ちきたる

月の夜の 街の夜霧に 鳥のごとく さびしき姿、行くか何処へ

瞑ぢよとて かなしく瞼 撫づるごと 墓場の樹樹の 葉の散りきたる

わがめぐり 墓場のつちに 散りしける 落葉はなにの 言葉なるらむ

停車場の 黒き柱に 身をもたせ 汝が行く国の 秋をおもふかな

ふり返るなかれといのり 人ごみの うしろ姿を じつと見送る

どよめける 旅客のなかに ただひとり 落葉のごとく まじりし汝よ

東京を 人目しのびて のがれ出づる 汝がうしろ影、われも然かせむ

別れ来て 銀座の街に 秋の木木 かげ濃き午後を 行けば靴鳴る