和歌と俳句

前田普羅

ゑご船の漕ぎて散らばる梅雨の海

ゑご採の蓑笠ありく終ひ梅雨

鵜が渡る岬の下の梅雨にごり

荒梅雨や山家の煙這ひまわる

梅雨あけて奥の山より一つ蝉

暁の蝉が聞ゆる岬かな

奥能登や浦々かけて梅雨の滝

夏山や二三枚の田を頂に

浅葱に夏鶯をききにけり

飛魚の入りて輝く鮪網

田祭や深き茶碗にあづき飯

田祭や草木を渡るあゆの風

夏草に温泉宿はかくれけり

磐梯のうしろに並ぶ梅雨の山

安達太良の梅雨も仕舞や甘草花

梅雨寒や尼の肋骨数うべう

夏霧や四つ手かぶさる夏井川

ひるがほを踏みて眺めぬ塩屋崎

馬の客オオイタドリに触れて行く

鬼ケ崎夏鶯の遠音して

夏空のいよいよ遠し鹿湯越

新樹かげ朴の広葉は叩き合ふ

若葉して人に触るるや毒卯木

浅間山蟹棲む水の滴れり