和歌と俳句

前田普羅

梅雨草の花の中なる平湯径

青山に遠山かさね梅雨晴るる

葉桜や蓑きて通ふ湯治客

むせかへる花栗の香を蝶くぐる

飛騨蒼し花栗かをり繭匂ふ

顔入れて馬も涼しや花卯木

早桃噛んで能登の入江を渡りけり

能登人や言葉少なに水を打つ

梅雨晴や北斗の下の能登に入る

手中にみどり褪せ行く早桃かな

水うつやはらりはらりと柏の葉

初夏の風遊船岩をはなれじと

鵜は下りて梅雨の濁りに浮びけり

早蝉の絶え入るばかり梅雨上がる

土用浪能登をかしげて通りけり

能登曇り十六宵草の露しとど

ハマナスや能登の目覚めに潮匂ふ

月見草白沙を神の御前まで

ヒルガホの平沙に立たせ気多の神

水無月や滞船ゆるる神代川

滞船のひしめき搏つや青あらし

はまなすの古江細江に加賀言葉

蟹のぼる桑の老木のたまり水

石伐りのたがね谺す夏の海