和歌と俳句

種田山頭火

前のページ< >次のページ

しろい蝶くろい蝶あかい蝶々もとぶところ

花がさいて蜂がきてゐる朝

この木のどこか病んでゐる日向水やらう

てふてふあそばせてあざみあさのいろ

ここにもてふてふがぢやがいものはな

うぐひすよ、もとのからだにはなれないで夏

死んでしまうたら、草のそよぐ

死ぬるばかりの、花の赤いかな

からりとしてしきりに死が考へられる日

死なうとおもふに、なんとてふてふひらひらする

夏野、犬が走れば人も走つて

朝風のきりぎりす大きうなつた

ゆふべあかるい草の葉で蝶はもう寝てゐる

風ひかる、あわただしくつるんでは虫

たつた一人の女事務員として鉢つつじ

サイレンが鐘が正しく私の時計も九時

草からてふてふがまた草へ

ゆふ空ゆうぜんとして蜘蛛の生活

蜘蛛は網張る、私は私を肯定する

枯木へ糸瓜の蔓をみちびく

萱もみな穂に出て何か待つてゐるようなゆふ風

かういふ世の中の広告気球を見あげては通る

実つて垂れて枯れてくる

いちめんの夏草をふむその点景の私として

待つでもなく待たぬでもなく青葉照つたり曇つたり

歩いても歩いても草ばかり

雑草やたらにひろがる肉体

てふてふとんでも何かありさうな昼

濡れて、てふてふも草の葉のよみがへる雨

虫はなんぼでもぶつかつてくる障子の灯かげ

ここにも工場建設とある草しげる

土に描いて遊ぶ子のかげもむつまじく

てふてふよつかれたかわたしはやすんでゐる

ふつと逢へて初夏の感情

青空したしくしんかんとして

朝じめりへぽとりと一つ柿の花

けさはじめてのによつこり

あひびきの朝風の薊の花がちります

酔ざめはくちなしの花のあまりあざやか

梅雨空おもく蜘蛛と蜂とがたたかふ

焼かれる虫のなんと大きい音だ

頬白がよう啼いて親鳥子鳥

何もないけどふるさとのちしやなます

話しても話しても昔話なんぼうでもとんぼ通りぬけさせる

けさも二人でトマト畑でトマトをたべる