和歌と俳句

続後撰和歌集

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前太政大臣実氏
あま小舟 よる方もなし 涙川 袖の湊は 名のみさわげど

従三位頼氏
ゆきてみぬ 思ひばかりを しるべにて よそにやこひむ 浦の初島

よみ人しらず
しほがまの 浦とはなしに 君こふる 煙もたえず なりにけるかな

よみ人しらず
みちのくの ちがのしほがま ちかながら からきは人に あはぬなりけり

よみ人しらず
いせの海の をののみなとの なかれ江の ながれてもみむ 人の心を

藤原通憲
君こふる 涙は海と なりぬれど みるめはからぬ 袖の浦かな

鎌倉右大臣実朝
難波潟 浦よりをちに 立浪の よそにききつつ 恋ひやわたらむ

後法性寺入道前関白太政大臣兼実
いさりする 与謝のあま人 こよひさへ 逢ふことなみに 袖ぬらせとや

久安百首歌に 郁芳門院安芸
恋をのみ 須磨の浦に しほたれて 焼くとも袖を くたすころかな

式子内親王
人しれず ものおもふ袖に くらべばや みちくるしほの 浪の下草

源家長朝臣
しらなみの あらゐのさきの そなれ松 かはらぬ色の 人ぞつれなき

藤原親盛
よとともに あはれしをるる 袂かな 飾磨のあまの 袖もからぬを

源重之
おもひやれ わが衣手は 難波なる あしのうら葉の かわくよぞなき

藤原道経
玉藻かる いらこのあまも わがごとや かわくまなくて 袖はぬるらむ

鎌倉右大臣実朝
うき名のみ をじまのあまの ぬれ衣 ぬるとないひそ 朽ちは果つとも

道助法親王家五十首歌に 中納言定家
いかにせむ あまのもしほ火 たえず立つ 煙によわる 浦風もなし

従二位家隆
たづねばや 煙を何に まがふらむ しのぶの浦の あまのもしほ火

右近大将公相
すくもたく もしほの煙 なびけただ うらみし末の しるべともみむ

権大納言実雄
松島や あまのもしほ木 それならで こりぬおもひに 立つ煙かな

太宰権帥為経
あまのたく もしほの煙 わがかたに なびかぬ恋の 身をこがすかな

権中納言師継
かはらやの したにこがるる 夕けぶり たえぬおもひの ありとだにみよ

藻壁門院少将
たえずひく 網のうけなは うきてのみ よるべくるしき 身の契かな

建保二年内大臣家百首歌 前中納言定家
よとともに 吹上の浜の しほかぜに なびくまさごの くだけてぞ思ふ

権大納言長家
風をなほ うらみつるかな もしほやく 煙のなびく 方をしらねば

前内大臣家良
難波江の あしかり小舟 ゆきかへり うき身こがれて 世をやつくさむ