寛平の御時きさいの宮の歌合のうた よみ人しらず
いとはれて 今はかぎりと しりにしを さらにむかしの 恋ひしかるらむ
弁乳母
こひしさは つらさにかへて やみにしを 何の残りて かくは悲しき
後法性寺入道前太政大臣家百首歌に 後京極摂政前太政大臣良経
忘るなよ とばかりいひて わかれにし そのあかつきや かぎりなりけむ
前大納言資賢
かぎりなく うかりし中を こりすまに 思ひもしらで また歎けとや
順徳院御製
ひとすぢに うきになしても たのまれず かはるにやすき 人の心は
尚侍家中納言
おしかへし いづくをしのぶ 涙ぞと 思へばいとど ぬるる袖かな
前内大臣基家
こひしなむ 後までとこそ たのみしが おなじ世にだに かかりける身を
太宰権帥為経
つれなくぞ 生きて辛さを 歎きける 逢ふにかへてし 命ならずや
従三位泰光
またも逢ふ 契やあると 頼まずば なにゆゑ惜しき 命ならまし
中臣祐茂
後の世と たのめもおかぬ 別れ路に ながらふべくも なき命かな
源有長朝臣
のちにまた あらば逢ふ世の たのみだに わが老らくの 身にはまたれず
洞院摂政左大臣教実
心こそ 契りしままに かはるとも おなじ空なる 月やみるらむ
前内大臣家良
わがために こころかはらぬ 月だにも ありしに似たる 影をやはみる
後堀河院御時 大納言隆親
めぐりあふ わすれがたみの 夜半の月 涙をかけて 契やはせし
藻壁門院但馬
ひと夜ねし かりそめふしの かや莚 今は涙を かさねてぞしく
前中納言匡房
夢とのみ 思ひなしつつ あるものを 何なかなかに おどろかすらむ
大炊御門右大臣公能
おもひきや かさねし夜半の から衣 かへして君を 夢にみむとは
中原師尚
はなかくて はや忘れにし うたたねを おもひあはする 夜半の夢かな
藤原信実朝臣
あふことは むかしがたりの 夢なれど おどろかさばや 思ひいづやと
皇太后宮大夫俊成女
あふとみて さめにしよりも はかなきは うつつの夢の 名残なりけり
鷹司院按察
おのづから おもひあはする 人もあらば かたらぬ夢の 世にやもりなむ
前大納言為家
たのまじな 思ひわびぬる よひよひの こころはゆきて 夢にみゆとも
藤原為継朝臣
いかにねて はかなくさめし 夢なれば そのおもかげの かぎりなりけむ
真昭法師
まよひこし やみのうつつの 名残とて みゆとはみえぬ 夢もうらめし
前中納言定家
さぞなげく 恋をするかの うつの山 うつつの夢の またとみえねば