家の風 絶えずもわたれ 神風や 御裳濯川に こころそめてき
君がへむ ことは子の日の 小松原 小高くなりて 花さかむまで
この君と いふ名もしるく 呉竹の よよへむまでも 頼みてをみむ
いさぎよき 法をたもちて 世にすまば 月とともにや 西へゆくべき
唐衣 たちこそきたれ さきの世に つみ重なれる 身にしあらねば
世の中を 厭ふあまりに とりのねも きこえぬ山の 麓にぞすむ
春の花 もとめしことも 秋の夜の 月もながめし まことならねば
ひとすぢに 頼むとを知れ 君にわれ ひかれば法の 道に入りなむ
世の中は 早瀬に落つる 水の沫の 程なく消ゆる ためしにもみる
われひとり 逃るべき世と 思ひせば 年のつもるも 嘆かざらまし
朝夕に 着なれし夜半の 唐衣 たちわかるるは 悲しかりけり
舟とめて 見れば絵島の 松が枝に しろきをのちに かくる白波
道を知る 駒なかりせば 行きなれぬ 旅の空にや 日を暮らさまし
しをりして 見えし山路も 夕されば 尚たどらるる ものにぞありける
住み慣れし やどのことのみ おもかげに あさたつ旅の 草枕かな
花さきし 野辺の草葉も 霜枯れぬ これにてぞ知る 旅の日数は
おほゐ川 下す筏の ひまぞなき 落ち来る滝も のどけからねば
夜もすがら 君を待つ間は おもひわび とりのなくにも よそにやはきく
詞花集・恋
慰むる 方もなくてや やみなまし 夢にも人の つれなかりせば
千載集・賀
いくちよと 限らぬ鶴の 声すなり 雲居の近き やどのしるしに
新勅撰集・秋
あまつそら うきぐもはらふ あきかぜに くまなくすめる 夜半の月かな
続後撰集・夏
夏の夜の あまのいはとは あけにけり 月の光の さすほどもなく
続後撰集・恋
おもひきや かさねし夜半の から衣 かへして君を 夢にみむとは
続後撰集・雑歌
かはかみに をれふす芦の 乱れ葉に しめゆひかくる 岸の白浪