和歌と俳句

続後撰和歌集

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

柿本人麿
かくてのみ こひやわたらむ たまきはる 命もしらず 年はへにけり

貫之
ぬきみだる 涙もしばし とまるやと 玉の緒ばかり 逢ふよしもがな

和泉式部
逢ふことの ありやなしやも みもはてで 絶えなむ玉の 緒をいかにせむ

伊勢
恋ひしきに しぬるものとは きかねども 世のためしにも なりぬべきかな

権中納言定頼
つれなきを 嘆くもくるし 白露の 消ゆるにたぐふ 命ともがな

後法性寺入道前関白太政大臣兼実
しのぶるに たへずなりなば いかがせむ 逢ふにかへむと 思ふ命を

修理大夫顕季
さりともと おもふばかりや わが恋の 命をかくる たのみなるらむ

道因法師
こひしなば 後の世とだに いふべきに 逢はではそれも えこそ契らね

正三位知家
こひしなむ 身をやは惜しむ 逢ふことに かへぬ命の 猶つらきかな

侍従伊成
さりともと しなぬ命の つれなさや つらきながらの たのみなるべき

源孝行
頼むべき あふをかぎりの 命だに はかなき世には またれやはせむ

寂延法師
あふことも たがためなれば 玉の緒の 命もしらず ものおもふらむ

平重時朝臣
あふまでの 人の心の かた糸に なみだをかけて よるぞ悲しき

土御門院小宰相
年をへて つらき心の かぎりをも 見はててよわる 玉の緒もがな

源家長朝臣
かた糸の あひみむまでと 年もへぬ つれなき人を 玉の緒にして

皇太后宮太夫俊成
うらみわび 猶かへせども さよ衣 夢にもおなじ つらさなりけり

大納言隆親
つれなさも よしや歎かじ あふとのみ みる夜の夢の まことならねば

西園寺入道前太政大臣公経
まどろまぬ わが身のほかの 夢にだに 見るとしきかば 猶も頼まむ

皇太后宮太夫俊成女
おもひねの 夢よりほかに 道もなき 心をかよふ まぼろしもがな

本院侍従
なげきつつ あなおぼつかな 唐衣 ぬれまさるらむ 袖をみぬまは

順徳院御製
すがはらや ふしみの里の ささまくら 夢もいくよの 人目よくらむ

入道前摂政左大臣道家
笛竹の 伏見の里の すが莚 ねにのみなきて ひとりかもねむ

従三位行能
長き夜の 寝覚めにものを 思ふとも しらでや人の 月を見るらむ

建保四年百首歌に 前中納言定家
夜もすがら 月にうれへて ねをぞなく 命にむかふ ものおもふとて

式子内親王
かげなれて やどる月かな 人しれず よなよなさわぐ 袖の湊に