七月七日 女御樹史女王につかはしける 天暦御製
こよひさへ よそにやきかむ わがための あまのかはらは わたる瀬もなし
小弁
七夕を なにかうらやむ あふことの まれなるほどは おとりしもせじ
和泉式部
身にしみて あはれなるかな いかなりし 秋ふく風を 音にききけむ
前太政大臣実氏
夕されば あまつ空なる 秋風に ゆくへもしらぬ 人を恋ひつつ
土御門院御製
涙ちる 袖に玉まく 葛の葉に 秋風ふくと とはばこたへよ
式子内親王
秋はきぬ ゆくへもしらぬ なげきかな たのめしことは このはふりつつ
中納言資季
月草の 花すり衣 あだにのみ こころの色の うつりゆくかな
道助法親王家五十首歌に 正三位知家
あだ人の 心の秋の 露よりぞ みしことのはも 色かはりゆく
前中納言定家
やどりせし かりほの萩の 露ばかり 消えなで袖の いろにこひつつ
従二位家隆
ながめしと 思ふ心も こりはてず あはで年ふる 秋の夕ぐれ
九条右大臣師輔
秋萩の した葉の色を 見るときぞ ひとりある人は 思ひしらるる
天暦御製
白露は わがしめゆひし 花なれど ほかにおきては しづ心なし
好忠
はださむく 風は夜ごとに ふきまさる わが見し人は おとづれもせず
参議雅経
おほかたの 秋をばいはず ものごとに うつろひゆhくを あはれとぞみる
従二位家隆
くれなゐの あさはの野らの 露の上に わがしく袖ぞ 人な咎めそ
昌泰四年八月十五夜歌合に よみ人しらず
おしなべて うつろふ秋も あはれてふ 言の葉のみぞ かはらざりける
伊勢
もみぢ葉に 色みえわかで 散るものは ものおもふ秋の 涙なりけり
権中納言定頼
秋の野に あさたつ鹿の ねにたてて なきぬばかりも こひわたるかな
よみ人しらず
秋の夜の 月とたのめし ひとことに 冬の空まで ながめつるかな
よみ人しらず
霜枯れに なりにし野辺と しらねばや はかなく人の かりにきつらむ
前中納言定家
契おきし すゑの原野の もとかしは それともしらじ よその霜枯
前大納言基良
はまちどり 跡だに今は かきたえて みぬめの浦に ぬるる袖かな相模
いかにせむ しほひの磯の 浜千鳥 ふみゆく跡も かくれなき身を
元輔
あふことの しばしもふれば あは雪の つもる思ひに 消えぞしぬべき