前大納言隆房
たまさかに わが待ちえたる 月なれば おぼろげならぬ 有明の影
興風
あへりとも 心もゆかぬ 夢路をば はかなきものと むべいひけり
神祇伯顕仲
うたたねの 夢かとのみぞ なげきつる 明けぬる夜半の 程しなければ
業平朝臣
いかでかは 鳥のなくらむ 人しれず 思ふ心は まだ夜深きに
よみ人しらず
したひもの ゆふつげ鳥の 声たてて 今朝のわかれに われぞなきぬる
洞院摂政左大臣教実
鐘のおとは なほふかき夜の やすらひに またおどろかす 鳥の音もうし
前大僧正慈鎮
こひこひて 逢ふ夜の夢を うつつとも しらずかほなる 鐘の音かな
寂超法師
かへるさの 袂にかかる 涙こそ うらみしよりも 色まさりけれ
藤原光俊朝臣
逢坂は 人のわかれの 道なれば ゆふつげ鳥の なかぬ夜もなし
皇太后宮大夫俊成
あかつきの わかれをしらで くやしくも あはぬつらさを 恨みけるかな
洞院摂政左大臣教実
あかつきは ゆくへもしらぬ わかれかな 峰のあらしの 横雲の空
土御門院御製
あかつきの なみだばかりを 形見にて わかるる袖に したふ月影
尚侍家中納言
夜寒なる あはれありあけの 月影に いかにせむとか おきわかるらむ
参議為氏
きぬぎぬの わかれしなくば うきものと いはでぞ見まし 有明の月
西園寺入道前太政大臣公経
みてもまた われやゆきけむ とばかりに 今朝恋ひわたる 夢のうきはし
延喜御製
朝露の なににおきけむ 玉くしげ あけてのみこそ みまくほしけれ
左近大将朝光
露わけて かへる袂に いとどしく しぐるる空の つらくもあるかな
道信朝臣
露よりも はかなかりける 心かな けさわれ何に おきてきつらむ
左近大将朝光
あかずして 帰るみ山の 白雪は 道もなきまで うづもれにけり
返し よみ人しらず
ともすれは 跡たえぬべき 帰る山 越路の雪は さぞ積るらむ
業平朝臣
あひみては 心ひとつを 河島の 水のながれて 絶えじとぞ思ふ
中務
あひみての 後さへものの かなしくば なぐさめがたく なりぬべきかな
清原深養父
うらみても しほのひるまは なぐさめつ 袂に浪の よるいかにせむ
業平朝臣
いとひても 誰かわかれの かたからむ ありしにまさる けふはかなしも
亭子院御製
くもゐにも かよふ心の しるなれば さばかりとこそ おもひやるらめ