和歌と俳句

続後撰和歌集

道助法親王家五十首歌に 藤原信実朝臣
冬きぬと いふばかりにや 神無月 けさは時雨の ふりまさりつつ

藤原光俊朝臣
冬のきて しぐるる時ぞ かみなびの 杜のこのはも ふりはじめける

西行法師
あづまやの あまりにもふる 時雨かな 誰かはしらぬ 神無月とは

大炊御門右大臣公能
草の葉に むすびし露の けさみれば いつしか霜に なりにけるかな

土御門院御製
もみぢ葉の ふりかくしてし わがやどに 道もまどはず 冬はきにけり

正三位知家
神無月 しぐるるころと いふことは まなく木の葉の ふればなりけり

太上天皇(後嵯峨院)
冬きては 衣ほすてふ ひまもなく しぐるる空の 天のかぐ山

前内大臣基家
片岡の あさけの風も ふきかへて 冬のけしきに ちる木の葉かな

前内大臣家良
ふきかはる 嵐ぞしるき ときは山 つれなき色に 冬はみえねど

後鳥羽院御製
色かはる ははその梢 いかならむ いはたの小野に 時雨ふるなり

和泉式部
とやまなる まさきのかづら 冬くれば ふかくも色の なりまさるかな

相模
木の葉ちる あらしの風の ふくころは 涙さへこそ 落ちまさりけれ

寂然法師
たれかまた まきのいたやに ねざめして 時雨の音に 袖ぬらすらむ

西行法師
時雨かと ねざめの床に きこゆるは 嵐にたへぬ 木の葉なりけり

八条太政大臣
こずゑをや 峰のあらしの 渡るらむ 紅葉しがらむ 山川の水

延喜七年 大井河に行幸時 坂上是則
もみぢばの 落ちてながるる 大井河 瀬々のしがらみ かげもとめなむ

前中納言定家
おほゐ河 まれのみゆきに 年へぬる 紅葉の舟路 あとはありけり

洞院摂政左大臣教実
おほゐ河 風のしがらみ かけてけり 紅葉のいかだ ゆきやらぬまで

藤原清輔朝臣
やまおろしの 風なかりせば わがやどの 庭の木の葉を 誰はらはまし

皇太后宮大夫俊成女
ふみわけて さらにたづぬる 人もなし 霜に朽ちぬる 庭のもみぢば