和歌と俳句

藤原定家

最勝四天王院名所御障子和歌

続後撰集・冬
大井川まれのみゆきに年へぬる紅葉のふなぢ跡はありけり

諸人も千代のみかげに宿しめてとはにあひ見む松の秋風

ふしみ山妻とふ鹿のなみだをやかりののいほの萩の上のつゆ

泉河かはなみ清くさす竿のうたかたなつをおのれけちつつ

春にあふをしほの小松かずかずにまさる緑のすゑぞひさしき

いまはとて鶯さそふ花の香にあふさかやまのまづかすむらむ

しがの浦やこほりも幾重ゐる田鶴の霜の上毛に雪はふりつつ

秋は来て露はまがふとすずかやまふる紅葉ばに袖ぞうつろふ

ますかがみ二見の浦にみがかれて神風きよき夏の夜の月

大淀の浦にかりほすみるめだにかすみにたえて帰るかりがね

なるみがた雪の衣手吹きかへす浦風おもくのこるつきかげ

霧はるる浜名の橋のたえだえにあらはれわたる松のしき浪

うつの山うつるなかりに嶺の色わきて時雨や思ひそめけむ

嵐吹く山の月かげあきながらよもさらしなのさとのしらゆき

時鳥なくやさつきもまだ知らぬ雪はふじのねいついつと分くらむ

きよみがた袖にも浪の月を見てかたへも待たぬ袖ぞすずしき

武蔵野のゆかりの色もとひ侘びぬみながらかすむ春の若くさ

暮るとあくと人を心におくらさで雪にもなりぬしらかはの関

思ひかね妻とふちどり風さむみあふくまがはの名をや尋ぬる

しぐれ行くあだちの原の薄霧にまだ染め果てぬ秋ぞこもれる

続後撰集・秋
うつりあへぬ花のちぐさに乱れつつ風の上なる宮城野のつゆ

ふみしだく安積の沼の夏草にかつみだれそふ信夫もぢずり

かすみとも花ともいはじ春のかげいづこはあれどしほがまの浦