和歌と俳句

続後撰和歌集

賀歌

宝治二年 前太政大臣実氏
つたへきく ひじりの代々の 跡をみて ふるきをうつす 道ならはなむ

御返し 太上天皇(後嵯峨院)
しらざりし 昔に今や かへりなむ かしこき世々の 跡ならひなば

前太政大臣実氏
ためしなき わが身よいかに 年たけて かかる御幸に いでつかへつる

前太政大臣実氏
いはひおく はじめと今日を 松が枝の ちとせの陰に すめる池水

太上天皇(後嵯峨院)
かげうつす 松にもちよの 色みえて けふすみそむる 宿の池水

大納言典侍
色かへぬ ときはの松の かげそへて ちよにやちよに すめる池水

前太政大臣実氏
君が代は 千々に枝させ 峰高き はこやの山の 松の行く末

延喜御製
ふたばより 今日をまつとは ひかるとも 久しき程を くらべてもみよ

太上天皇(後嵯峨院)
いざけふは 小松が原に 子日して ちよのためしに わがよひかれむ

太上天皇(後嵯峨院)
きてみれば ちよもへぬべし たかはまの 松にむれゐる 鶴の毛衣

建永元年八月十五夜 後鳥羽院御製
いにしへも 心のままに みし月の 跡をたづぬる 秋の池水

前太政大臣実氏
くちはてぬ おいきにさける 花桜 身によそへても けふはかざさむ

寛喜元年女御入内屏風に 入道前摂政左大臣道家
わが君の ちよのみかげに 桜花 のどけき風は 枝もならさず

鳥羽院位におはしましける時 富家入道前関白太政大臣
なさけありて のどけき風の けしきかな 九重匂ふ 花のあたりに

応徳元年三月 大納言俊明
君が代の 春にちきれる 花なれば またゆくすゑの かぎりなきかな

永長元年三月 前中納言匡房
いはねども 色にぞしるき 桜花 君が千とせの 春のはじめは

天暦七年十月 天暦御製
心して 霜のおきける 菊の花 千世にかはらぬ 色とこそみれ

大納言重光
時雨にも 霜にもかれぬ 菊の花 けふのかざしに さしてこそしれ

延喜十七年十月菊の宴の日 三条右大臣実方
たがために ながき冬まで にほふらむ とはば千とせと 君ぞこたへむ

承保三年大井川に行幸の日 弁乳母
うつろはで 久しかるべき 匂ひかな さかりにみゆる しら菊の花

よみ人しらず
みえわたる 浜の真砂や あしたづの 千世をかぞふる 数となるらむ

祭主輔親
まな鶴の 久しき友と なりぬべし すむ山水に 影をならべば

堀河院に百首歌奉りける時 権大納言公実
きみがよの 数にくらべば 何なら ちひろの浜の 真砂なりとも

元輔
ちとせふる 松といふとも うゑてみる 人ぞかぞへて しるべかりける

右近大将定国四十賀の屏風に 素性法師
うゑてみる 松と竹とは 君が代に ちとせゆきかふ 色もかはらじ

躬恒
沢田川 せぜのしらいと くりかへし 君うちはへて よろづよやへむ

貞元二年初 
むかしより 色もかはらぬ 河竹の よよをば君ぞ かぞへわたらむ

承保三年十月 土御門右大臣
大井川 つねよりことに みゆるかな 君が御幸を まつにぞありける

建仁二年 鳥羽院殿にて 源具親朝臣
君すめば のどかにかよふ 松風に 千とせをうつす 庭の池水

鎌倉右大臣実朝
ちはやふる いづのを山の 玉椿 やほよろづよも 色はかはらじ

藤原為頼朝臣
水のうへに ひかりさやけき 秋の月 よろづよまでの 鏡なるべし

後京極摂政前太政大臣良経
四方の海 風しづかなる 浪の上に くもりなきよの 月をみるかな

左衛門督通成
いく秋も かはらぬ夜半の 月にまた よろづ世かけて なほちぎるかな

祝部成茂
神もみよ くもりなき世の 鏡山 いのるかひある 月ぞさやけき

建仁三年 和歌所にて釈阿に九十賀給はせける時 大蔵卿有家
百とせの ちかづく坂に つきそめて 今ゆくすゑも かかれとぞ思ふ

皇太后宮大夫俊成
この杖は わかにはあらず わが君の やをよろづよの 御世のためなり

天仁元年大嘗会悠紀の御屏風に 三神山 前中納言匡房
あさみどり 三神の山の 春霞 たつや千とせの はじめなるらむ

鏡山 前中納言匡房
くもりなき 君が御代には 鏡山 のどけき月の 影もみえけり

仁治三年悠紀風俗歌 三神山 前参議為長
いにしへに 名をのみききて もとめけむ みかみの山は これぞその山

石崎 前中納言経光
末とほき 千世のかげこそ 久しけれ まだ二葉なる いはさきの松

寛元四年主基風俗歌 神山 正三位成実
神山の ひかげのかづら かざすてふ とよのあかりぞ わきてくまなき

藤坂山 正三位成実
むらさきの 藤さか山に さく花の 千世のかざしは 君がためかも