拾遺集・夏
むらさきの藤さく松の梢にはもとの緑も見えずぞありける
彦星を待つとはなしに何すとて天の川霧いそぎたつらむ
七夕に今朝はかしつるあさの糸を夜はまつるとひとは知らずや
天の川わたしもりにもなりにしかたなばたつめに今日を待たまし
名にしおへばかささきのはしわたすなり別るる袖はなほや濡るらむ
はちす葉にもみぢもしける水の面に底までみよと照らす月かげ
拾遺集・秋
水の面に照る月なみをかぞふれば今宵ぞ秋のもなかなりける
月あかき今宵ぞ数はかぞへつる常も鹿たつ木とはみれども
紅葉ゆゑ家もわすれてくらすかな帰へらば色や薄くなるとて
しぐれかとおどろかれつつ降る紅葉あかき空をも曇るとぞおもふ
秋霧をわけゆく雁はなになれや遅れて後に惑ふけふかな
池の面に浮ぶ紅葉の唐にしきをしといふとりぞたたでゐるらし
拾遺集・雑
ほどもなくいづみばかりに沈む身はいかなるつみの深きなるらむ
天つ風そらに吹きあぐるひまもあらば沢にぞたづはなくとつげなむ
越の海に群はゐるともみやこ鳥みやこのかたぞ恋ひしかるべき
神のます気多のみやまきしげくともわきて祈らむ君が千歳を
をととしもこぞもことしもをととひもきのふもけふもわが恋ふる君
かきたえてとはぬは憂くも思ほえずかかるに死なぬ身をいかにせむ
続後撰集・賀貞元二年初
むかしより 色もかはらぬ 河竹の よよをば君ぞ かぞへわたらむ