秋風になびくゆふべの花すすきほのかにまねくたちどまりなむ
こなたしもなびきおどれる花すすき玉まくくすのまくるなるべし
たまのををみなへしひとのたえざらば貫くべきものを秋の白露
くらぶ山ふもとの野辺の女郎花つゆの下よりうつしつるかな
わぎもこが女郎花てふあたらなをたまのをにやはむすびこむべき
さを鹿のすだく麓の下萩は露けきことのかたくもあるかな
萩の葉におく白露のたまりせば花のかたみのおもはざらまし
露をあさみ下葉もいまだもみぢねばあかくも見えずかちまけのほど
わかれゆく秋をししらに鳴く鹿は命をさへやとどめかぬらむ
あだし野の草むらにのみまじりつるにほひは今やひとに知られむ
おぼつかなあだし野みれば花もなしそらににほふといふやなにぞも
とこなつの露うちはらふ宵ごとに草の香うつる我が袂かな
野辺ごとに花をしつめば草々の香うつる袖ぞ露けかりける
千草の香うつる袂もありけるをなどあさかほを隠さざりけむ
白雲のかかりしをにも秋霧のたてばや山は空にみゆらむ
高砂の山のをしかは年を経ておなしをにこそたちならしなけ
麓とも峰とも見えず秋霧のたちなば何か空に見べき
そよと吹く秋の荻だになかりせば何につけてか風をしらまし
荻の葉のすゑこす風の音よりぞ秋のふけゆくほどはしらるる
荻の葉をそよがす風の音たかみすゑこすかたはすこしまされり
やまがつの垣根のほかに朝夕の露にうつるな撫子の花
秋ふかく色うつりゆく野辺ながらなほとこなつに見ゆる撫子
秋もなほとこなつかしき野辺ながらうたかひおける露ぞはかなき
ゆく秋の風にみだるる刈萱はしめゆふ露もとまらざりけり
うつしうゑばつかのまもなく刈萱はみちよの数をかぞふばかりぞ