照る月ももるる板間の逢はぬ夜は濡れこそまされかへす衣手
駿河なる富士の煙も春たてば霞とのみぞ見えてたなびく
草しげみ人もかよはぬ山里に誰かうちはらひつくる苗代
ろくろにや糸もひくらむひきまゆの白玉のをにぬけとたえぬい
いづこなる草のゆかりぞ女郎花こころをおける露やしるとち
ちりもなき鏡の山にいとどしくよそにて見れどあかきもみぢば
花かとて雪のまにまにをりくれどかつきえかへり手にもたまらず
かたいとに経つつわぶるは知るや人よらむとおもひてかつやたえなむ
むぐら生のまなきあらのと宿はあれて我がせは見えず待てど久しく
草枕つゆさへ結ぶ袂なり枯れつつ後の夢のかよひ路
へに通ふるいの岸より引くつなて泊はここと告げよ難波江
松もおひ野山もときは秋くれどははその紅葉てるとやはきく
山もかくみなもみぢけりなどかりへ虫のなくねをもどく白露
にほとりか宿りせるあまはかもなくらうたくぬれて寝める今宵か
田の水の深からずのみ見ゆるかな人の心の浅くくなるさま
まかせてしたねもおひねば春の田のかへすがへすも憂きは我が身を
をりをりににほふたくへの梅なれや惜しめどかひな花のにほひや
やとなからおもひこそやれしまくたをいもかつくるたかすはいくいた
すきかてそこぞの苗代ことし見てつくりまつらむいもがあらをた
つれづれと寝てあかしくる夜な夜なに逢はぬがからさこれやひとりね
たがふなと君にいひてこしはしたをつくり見ぬひと秋やこむはた
やそしまに藻塩やきおくあまの袖むすひがたくもよそに見ゆるか
思ひ出でよ濡れこし宿のにはたづみ憂きかほ見よと我はいはせき
五月雨に物思ひをれはほとときす鳴きてぞわたる我ならなくに
衣手はまたも乾かず泣く涙いとひかたしやしほるうらうへ