信濃なる浅間の嶽のあさましや思ひくまなき君にもあるかな
いにしへを思ひいづれば池水のたえしとのみもたのまるるかな
きみとわれ心くらぶの山なれやしげき思ひに身をたのみやく
富士の嶺もかくやあるらむよとともに思ひいづれとなほぞもえける
わがおもひ身にあまりぬやむねをやくこれよりまさる心あらじな
うつせみのなきてこふれど来ぬ人をまつにもすがる夏の月かな
ゆくゆくともみづる山を見るときは枯れぬる人もこひしかりけり
頼めしはおほそらごとと今ぞしるかくこふるにも君が見えねば
あひみればおぼつかなくやをぐら山こひつつまつのいく夜へぬらむ
ちよをへし松は二葉もかはらぬに枯れゆく人の心なになる
禊するせみのをかはの清き瀬に君がよはひをなほいのるかな
神無月はては紅葉もいかなれや時雨とともにふりにふるらむ
千鳥なく佐保のかはぎり佐保山の紅葉ばかりはたちなかくしそ
世の中を何にたとへむあかねさすあさひまつまの萩の上の露
世の中を何にたとへむ夕露もまたできえぬる朝顔の花
世の中を何ににたとへむ明日香川さだめなき世にたぎつ水のあわ
世の中を何にたとへむうたたねの夢路ばかりに通ふたまほこ
世の中を何にたとへむ吹く風はゆくへもしらぬみねの白雲
後拾遺集・雑歌
世の中を何にたとへむ秋の田をほのかにてらす宵のいなづま
世の中を何にたとへむにごり江の底にならでも宿る月かげ
世の中を何にたとへむ草も木も枯れゆくころの野辺の虫のね
世の中を何にたとへむ冬をあさみ降るとはみれど消ぬる白雪
はなのみなひもとく野辺のしのすすきいかなる露か結びおきけむ