ちはやふる賀茂の川霧きるなかにしるきはすれる衣なりけり
冬山の雪間にこれるあはれきの上にぞくゆる残すつみなく
ときしまれけふにしあへるもちかゆは松の千歳に君もによとか
拾遺集
春ふかみ井出のかはなみたちかへり見てこそゆかめ山吹の花
たがために君を恋ふらむ恋ひわびてわれはわれにもあらずなりゆく
後拾遺集・哀傷
宵のまの空やけぶりとなりにきと天のはらからなどかつげこぬ
拾遺集・雑春
引く人もなしとわびつるあづさ弓今ぞうれしきもろ矢しつれば
露をおもみ絶えぬばかりの青柳はいくめかけたるこがねなるらむ
拾遺集・夏
わが宿の垣根や春を隔つらむ夏きにけりと見ゆる卯の花
おほつかなゆく旅人をたれとてか山ほととぎすまづなのるらむ
池水になびく玉藻の底きよみちよさへしるきつるのかげかな
あしたづのかげのみうかぶ池水はちよにすむべきしるしとぞみる
里とほみ雲路かきわけ水くきのあとかとみゆる雁はきにけり
みなかみに風や吹くらし山川の瀬々に紅葉の色ふかくみゆ
雨ふれば草葉の露もまさりけり淀の渡りを思ひこそやれ
ほととぎす起きて待つ夜は明けにけりほのに卯の花しろくみえゆく
もみぢばをそまやま風の吹きつめば舟にしぐれの秋はきにけり
はちすだにおひさらませは水の上に露おきけりといかでしらまし
拾遺集・雑春
年ごとに春はくれども池におふるぬなははたえぬものにざりける
道とほみ人も通はぬ梅の花きみには風やわきてつけつる
かりにくる人もこそきけ春の野にあさなく雉の近くあるかな
やまさくら木のした風し心あらば香をのみ告げよ花な散らしそ
卯の花の折らまくをしき山里にほととぎすさへきつつなくなり
わが悲願みあれにつけて祈ること鳴るなる鈴もまづきこえけり