数ならぬみの卯の花のさきはたれ物をぞ思ふ夏の夕暮
野辺ごとに茂る夏草ふかくこそ契りおきしか千歳枯れじと
ふりがたき心のつねに恋ひしきをかりにも人のにぬはかなしな
うらみればおもしろきかな春の夜の花をや春の風はかざしし
すきものとなりぬべきかなあらをだの花や蝶やに心かけつつ
わが田には木のした水をまかせいれて花のにほひを絶えずあらせむ
あさなくにまたとりあへずおほかれば鶴のこゑともなきぬべきか
かれはつる人の心に比ぶればなほ夏の夜は長くぞありける
五月雨の宿の蚊遣火くゆれどもほにいでがたきものとしらなむ
ひく人にまかせらるればあやめ草あだなはのへにたちやはつべき
なつかさの深き寝覚めをたづねつつ深くも人を頼むころかな
山里の夏の垣根はおぼつかな雲のゆかりに見ゆる卯の花
秋風の身に寒ければうちかへし薄き衣をうらみつるかな
いかばかり憂きよなればか鹿のなく奥山までに人のいるらむ
いかになほ隠してをみむ女郎花秋はてぬとも霜におかせじ
七夕の宿りなるべしはたおりめ草むらごとに泣くこゑのする
うへやにも逢はずなりにし小山田を秋のかりにも来ぬやなになる
あはれふるみやま隠れのさねかづら来る人見えで老ひにけるかな
白露の消えみ消えずみかひなくてふりぬる身をも思ふころかな
こがらしのもりの木の葉はちりはてて雪ふかくのみうづもれにけり
池水の浅く見えしも冬くれば氷はふかきものにさりけり
津の国のまろやあやなし冬ごもりなかたえにける憂きやどりかな
煙たつ富士の山こそあやしけれ燃ゆとは見れど雪の消えねば
嘆きつつ過す月日は何なれやまだき木の芽ももえまさるらむ