やまおろしの風に紅葉の散るときはささなみぞまづ色づきにける
山里に心あはする人ありと我はしたかにかはりてぞとふ
あさ氷とくる網代の氷魚なればよれどあはにぞ見えわたりける
わたつみの底の名残もけさはあらじかづくはいかにあまならずとも
こころして風はふかなむ花の散る方にや春もゆくとたづねむ
久方の空さへすめる秋の月いづれの水にやどらざるらむ
あはれてふ言の葉もこそ聞こえくれよそにきえなむことのかなしさ
われながらくらべわびぬる心かな今さへなほやこひしかるべき
拾遺集・賀
老ぬればおなしことこそせられけれ君はちよませ君はちよませ
なくこゑをとりだにかふるものならばほととぎすとてききあかさまし
君きかばなけほとときす黒髪のふぶきになれば我もおとらす
天つ風あふぐともゆめ霧たつなこは七夕の織れる錦ぞ
うつろはむ時や見わかむ冬の夜の霜とひとつに見ゆる白菊
君だにも荒れたる宿にやとらずばよそにぞ見まし望月の駒
詞花集・秋
水きよみやどれる秋の月さへや千代まできみとすまむとすらむ
色ふかき岸のまにまに咲ける花あさきなみには折られざりけり
くさむらの底まで月の照らせばや鳴く虫のねのかくれざるらむ
ゐせきにはさはらず水のもるにあへばまへのうめつも残らざりけり
いづみ田に残らずいかでもりにけむ堰の古杭くひものかぬに
いづみにはあらぬまがきのしまちかみ波の越えつつもるとこそきけ
うち越ゆる波の音をばもらぬよりしまきの風ぞうちかへさまし
花をこそ人やをるとてとがめしか数ならぬ身は何にかはせむ
かみよより色もかはらでたけかはのよよをば君ぞ数へわたらむ
新古今集・雑歌
たのもしなののみや人のううる花しぐるる月にあすはなるとも
あすよりはしぐれにかかる花をうゑて野へやるべくもあらぬ秋かな