浅茅生の露ふきむすぶ木枯しに乱れてもなく虫の声かな
秋風に露を涙と鳴く虫の思ふ心をたれにとはまし
木枯しの秋の初風ふかぬまになどかくもゐに雁のおとせぬ
わがかどのわさたの稲も刈らなくにまだきふきぬる木枯しの風
なく虫の涙になせる露よりも露ふきむすぶ風はまされり
しらけゆくかみには霜やおきな草言の葉もみな枯れはてにけり
霜枯れのおきな草とはなのれどもをみなへしにはなほなびきけり
よを寒みことにしもいる松風は君にひかれてちよやそふらむ
けふとくる水にかけてそむすぶらし千歳の春にあはむ契りを
きのふまで冬こもれりしみ吉野の霞はけふやたちもそふらむ
いはにおふる子の日の松も種しあれば千歳の春はわれにおほせよ
稲荷山をのへにたてる杉杉にゆきかふひとのたえぬけふかな
おりたてばそらまでひつる袂さへなにうちかへすあらたなるらむ
いかにして花をつままし花の香を袖にとめくるつみもこそうれ
春ふかき山にいればやあづさゆみ吹く風にさへ花のちるらむ
神のます森のしたくさ風吹けばなびきてもみなまつるころかな
拾遺集・夏
ほととぎす待つにつけてやともしするひとも山辺に夜をあかすらむ
ねぎごとをきかずあらぶる神だにもけふは夏越とひとはしらなむ
拾遺集・雑秋
七夕は空にしるらむささがにのいとかくばかりまつる心を
けふのためをれるはちすの葉をひろみ露おく山にわれはきにけり
なににわれ夜半にきつらむ逢坂の関あけてこそ駒もひきけれ
水の面にやどれる月ののどけきはなみゐてひとも寝ぬ夜なればか
里とほみ暮れくれなば野辺にとまるべしいなおほせとりにやどやからまし
風さむみ鳴くかりがねにあはすれば夜の衣はうちまさりけり
拾遺集・秋
名をきけは昔ながらの山なれどしぐるる秋は色かはりけり