冬草をむすぶもあだにあかす夜のまくらもしらず霰ふるなり
いろ見えぬ冬のあらしのやまかぜに松の枯葉ぞ雨と降りける
なら柴もかれ行く雉子かげをなみ立つや狩場の己がありかを
濱松のねられぬ浪のとまやかたなほ聲そふる小夜ちどりかな
身をしをるすみのやすきを蔓にて氷をいしぐあまのころもで
あけぬとて出でつる人のあともなしただ時のまにつもる白雪
とはるるを誰ばかりとやながむらむ雪のあさけの岩のかけ道
いとどしく降りそふ雪に谷ふかみしられぬ松の埋もれぬらむ
むかひ行く六十ぢの坂の近ければあはれも雪も身に積もりつつ
いまぞ思ふいかなる月日ふじのねのみねに烟の立ちはぢめけむ
昨日今日雲のはたてを眺むとて見もせぬ人のおもひやは知る
初雁のとわたる風のたよりにもあらぬおもひを誰につたへむ
まどろまぬ霜おくよはの百はがき羽かく鴫のくだけてぞ鳴く
続後撰集・恋
夜もすがら月にうれへて音をぞなく命にむかふものおもふとて
暮るる夜はおもかげ見えて玉かづらならぬ恋する我ぞ悲しき
袖のうへも恋ぞつもりてふちとなる人をば峯のよその瀧つ瀬
いかにしてむかひの岡に刈る草の束の間にだに露の影見む
いかにせむ浪越す袖にちる玉の數にもあらぬしづのをだまき
夢といへどいやはるかなる春の夜に惑ふただぢは見ても頼まず