和歌と俳句

藤原定家

院百首


秋のかはおとすみてあかす夜にをちかた人の誰をとふらむ

袖の上におもひいれじとしのべども絶えず宿かるの影かな

まどろまで眺むる月のあけがたにねざめやすらむ衣打つなり

おきて行く誰が通ひ路の朝露ぞ草のたもともしぼるばかりに

さを鹿のしがらむ萩も時過ぎて枯れ行く小野を恨みてぞ見る

引き結ぶかりほの庵もあきくれてあらしによわき松蟲のこゑ

秋の色の目にさやかなるふるさとに鳴きての誰しのぶらむ

おろかなる露や草葉にぬくたまを今はせきあへぬ初時雨かな

雁がねのなみだのつゆの玉ながらぬきもさだめず織る錦かな

守る山の時雨の秋を見てしがなこころづからや紅葉はつると

ちぎりありてうつろはむとや白菊の紅葉の下の花に咲きけむ

長月のもみぢの山のゆふしぐれはるる日影も雲はそめけり

いづみ川日もゆふぐれのこま錦かたえおち行く秋のもみぢば

木の葉もて風のかけたるしがらみにさても淀まぬ秋の色かな

こがらしのもりの梢のあさなさな名にあらはるる神無月かな

風さむみみほの浦わをこぐ舟に山のこのはのきほひがほなる

とまらじな四方の時雨の古里となりにしならのしもの朽葉は

かささぎのはがひの山の山風のはらひもあへぬ霜のうへの月

にほどりは玉藻の宿もかれなくに頼みしあしぞ青葉まじらぬ