和歌と俳句

藤原定家

院百首

春の色にせみの羽衣ぬぎかへてはつこゑおそき時鳥かな

しのばるる常磐の山の岩つつじ春のかたみの数ならねども

物毎にしぐれのわきし松の色をひとつにそむる夏の雨かな

ほととぎす旅なるけさの初聲にまづ里見えよ軒のたちばな

ほととぎす心づくしの山のはを待たぬにいづるいざよひの月

いたづらに雲ゐる山の松の葉の時ぞともなき五月雨の空

あやめ草ふくや皐月の長き日にしばしをやまぬ軒の玉水

秋たたむいなばの風をいそぐとてみしぶにまじる田子の衣手

あたらしや鵜舟のかがりさしはへていとふ川瀬の有明の月

さゆりばのしられぬ恋もあるものを身よりあまりて行くかな

よそへてのかひこそなけれまつ人はこすの常夏花に咲けども

夏衣かとりのうらのうたたねに浪のよるよるかよふ秋風

木の間もる垣根にうすき三日月の影あらはるる夕顔の花

夕立の雲ふく風の時のまに露ほしはつる小野の篠原

あすか川ゆくせの波にみそぎして早くも年のなかば過ぎぬる

さらぬだにあだに散るてふ櫻麻の露もたまらぬ秋のはつ風

七夕の手だまもゆらにおるはたををりしもならふの聲かな

わが宿は萩の白露あともなしたれかはとはむ野邊のふるみち

おほかたにつもれば人のとばかりにながめし月もそでや濡れけむ

あはれのみいやとしのはに色まさる月とつゆとの野邊の篠原