和歌と俳句

藤原定家

仁和寺宮五十首

いこま山いさむる嶺にゐるくもの浮きて思はきゆる日もなし

道の邊のあだなる露をおきとめて行くてに消たぬ恋ぞ悲しき

続後撰集・恋
いかにせむ蜑のもしほび絶えずたつ烟によわる浦風もなし

末までと誰かちぎりし秋の霜うかしがたりの庭のしたくさ

逢坂の往来にたつる鳥のねの鳴く鳴くをしきあかつきぞなき

おもひいづる契りのほども短夜の春の枕の夢はさめにき

おのづからまたありあけの月を見てすむともなしの憂にたへたる

つくづくと明け行く窓のともしびのありやとばかり問ふ人もなし

わきてなど我しもたへぬ露けさぞ山路は誰も旅人ぞ行く

明くる夜のゆふつけ鳥に立ち別れ浦浪とほく出づるふなびと

野邊の露うつりにけりな狩衣萩のしたばを分くとせしまに

おほかたの松のちとせはふりぬとも人のまことは君ぞかぞへむ