いこま山いさむる嶺にゐるくもの浮きて思はきゆる日もなし
道の邊のあだなる露をおきとめて行くてに消たぬ恋ぞ悲しき
続後撰集・恋
いかにせむ蜑のもしほび絶えずたつ烟によわる浦風もなし
末までと誰かちぎりし秋の霜うかしがたりの庭のしたくさ
逢坂の往来にたつる鳥のねの鳴く鳴くをしきあかつきぞなき
おもひいづる契りのほども短夜の春の枕の夢はさめにき
おのづからまたありあけの月を見てすむともなしの憂にたへたる
つくづくと明け行く窓のともしびのありやとばかり問ふ人もなし
わきてなど我しもたへぬ露けさぞ山路は誰も旅人ぞ行く
明くる夜のゆふつけ鳥に立ち別れ浦浪とほく出づるふなびと
野邊の露うつりにけりな狩衣萩のしたばを分くとせしまに
おほかたの松のちとせはふりぬとも人のまことは君ぞかぞへむ