和歌と俳句

続後撰和歌集

雑歌

朱雀院かくれさせ給ける時 彼御をくりに参りてよみ侍ける 忠見
とまりぬる 人だにまよふ 道なれば ゆきわびぬとて 君帰らなむ

女御高子かくれ侍て安祥寺にて後のわざし侍けるに 人々のさゝげ物奉れるをみて読侍ける 業平朝臣
山のみな うつりてけふに あふことは 春のわかれを とふとなるべし

源重之
おもひいでて かなしきものは 人しれぬ 心のうちの わかれなりけり

藻壁門院 御事の後かしらおろし侍けるを 人のとぶらひて侍ける返事に 後堀河院民部卿典侍
かなしきは うき世の咎と そむけども ただこひしさの なぐさめぞなき

後堀河院御いての日よめる 平繁茂
みし夢の 別れにあたる 月日こそ うしとても猶 かたみなりけれ

後高倉院かくれさせ給て後 北白河にまいりて思出る事おほくてよみ侍ける 右兵衛督基氏
今日の日の 入りにし山と 思ふにぞ 忘れぬかげも 更にこひしき

道助法親王 春かくれ侍にける年の秋 道深法親王又おなしさまになり侍けるを歎てよみ侍ける 法眼覚宗
みむろ山 花も紅葉も かつ散りて 頼むかげなき 谷の下草

後白河院かくれさせ給て後の秋 長講堂にまいりて薄をみて 入道親王承仁
ふくかぜに 誰をかまねく 花すすき 君なき宿の 秋の夕暮

父の墓所にまかりて 兵部卿有教
くちぬ名を たづねても猶 かなしきは 苔ふりにける 跡の松風

母の墓所をあらためて 高野の山にをくるとてよめる 法眼俊快
けふことに とふはならひと 思ふにも はかなき跡ぞ いとどかなしき

父成仲身まかりてのち 後徳大寺左大臣訪て侍けるに 祝部允仲
ここのそぢ あまりかなしき わかれかな ながきよはひと なにたのみけむ

藤原基綱
鳥辺山 あだに思ひし 雲ぞなを 月日へだつる 形見なりける

父秀能身まかりてつきの年 除服すとてよめる 藤原秀茂
藤衣 なれしかたみを ぬぎすてて あらぬ袂も なみだなりけり

人のなき跡に ふるき文を見いだしてよめる 藤原基政
あらざらむ 後しのべども いはざりし ことのはのみぞ かたみなりける

前中納言定家 母の思ひに侍ける とふらひ侍とて 殷富門院大輔
常ならぬ 世はうきものと いひいひて げにかなしきを 今やしるらむ