和歌と俳句

新古今和歌集

雑歌

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刑部卿範兼
月をなど待たれのみすと思ひけむげに山の端は出で憂きかりけり

法印静賢
思ひ出づる人もあらしの山の端にひとりぞ入りし有明の月

民部卿範光
和歌の浦に家の風こそなけれども波吹く色は月に見えけり

宜秋門院丹後
夜もすがら浦こぐ舟はあともなし月ぞのこれる志賀の辛崎

藤原盛方朝臣
山の端におもひも入らじ世の中はとてもかくても有明の月

皇太后宮大夫俊成
忘れじよ忘るなとだにいひてまし雲居の月のこころありせば

皇太后宮大夫俊成
いかにして袖に光のやどるらむ雲居の月はへだてこし身を

左近中将公衡
心にはわするるときもなかりけりみよの昔の雲のうへの月

二条院讃岐
むかし見し雲居をめぐる秋の月いまいくとせか袖にやどさむ

藤原経通朝臣
うき身世にながらへばなほ思ひ出でよ袂にちぎる有明の月

藤原長能
都にも人や待つらむ石山のみねにのこれる秋の夜の月

躬恒
淡路にてあはとはるかに見し月の近きこよひはところがらかも

源道済
いたづらに寝てはあかせど諸共に君が来ぬ夜の月は見ざりき

増基法師
天の原はるかにひとりながむれば袂に月の出でにけるかな

よみ人しらず
たのめこし人をまつちの山の端に小夜更けしかば月も入りにき

摂政太政大臣良経
月見ばといひしばかりの人来でまきの戸たたく庭のまつ風

前大僧正慈円
山ざとに月は見るやと人は来ず空ゆく風ぞ木の葉をも訪ふ

前大僧正慈円
有明の月のゆくへをながめてぞ野寺の鐘は聞くべかりける

藤原業清朝臣
山の端を出でても松の木の間より心づくしの有明の月

鴨長明
よもすがらひとりみ山のまきの葉にくもるもすめる有明の月

藤原秀能
奥山の木の葉の落つる秋風にたえだえみねの月ぞのこれる

藤原秀能
月澄めばよものうき雲そらに消えてみ山がくれを行く嵐かな

猷圓法師
ながめわびぬ柴のあみ戸の明方に山の端ちかくのこる月影

花山院御歌
あかつきの月見むとしもおもはねど見し人ゆゑにながめられつつ

伊勢大輔
ありあけの月ばかりこそ通ひけれ来る人なしの宿の庭にも

和泉式部
住みなれし人影もせぬわが宿に有明の月のいく夜ともなく

大納言経信
住む人もあるかなきかの宿ならし葦間の月のもるにまかせて

皇太后宮大夫俊成
思ひきや別れし秋に廻りあひてまたもこの世の月を見むとは

西行法師
月を見て心うかれしいにしへの秋にもさらにめぐり逢ひぬる

西行法師
夜もすがら月こそ袖にやどりけれむかしの秋をおもひ出づれば

西行法師
月の色に心をきよくそめましや都を出でぬわが身なりせば

西行法師
棄つとならば憂き世を厭ふしるしあらむ我には曇れ秋の夜の月

西行法師
ふけにけるわがみのかげをおもふまにはるかに月の傾きにける

入道親王覚性
ながめして過ぎにしかたを思ふまに峯より峯に月はうつりぬ