新古今集・雑歌
うけがたき人の姿にうかび出でてこりずや誰もまた沈むべき
新古今集・雑歌
おろかなる心のひくにまかせてもさてさはいかに終の思ひは
行くほどは縄の鎖につながれて思へばかなし手枷首枷
死出の山越ゆる絶え間はあらじかしなくなる人の数続きつつ
沈むなる死出の山川みなぎりて馬筏もやかなはざるらん
木曾人は海に碇を沈めかねて死出の山にも入りにけるかな
先立たば導べせよとぞ契りしに遅れて思ふ跡のあはれさ
いかばかりあはれなるらん夕まぐれただひとり行くたびの中空
ほととぎす死出の山路へ帰り行きてわが越え行かむ友にならなん
吉野山去年の枝折の道かへてまだ見ぬかたの花を尋ねん
月は都花のにほひは越の山と思ふよ雁の行き帰りつつ
花散りて雲晴れぬれば吉野山梢の空は緑にぞなる
花散りぬやがて尋ねんほととぎす春を限らじみ吉野の山
心をぞやがて蓮に咲かせつる今見る花の散るにたぐへて
比良の山春も消えせぬ雪とてや花をも人の尋ねざるらん
我ぞまづ初ね聞かましほととぎす待つ心をも思ひ知られば
たち花の盛り知らなんほととぎす散りなんのちに声は嗄るとも
よそに聞くはおぼつかなきにほととぎすわが軒に咲くたち花に鳴け
竹の戸を夜ごとに叩く水鶏かな臥しながら聞く人を諌めて
衣川水際に寄りて立つ波は岸の松が根洗ふなりけり
嘆きよりしづる涙の露けきに香ごめにものを思はずもがな
いちこ守るうばめおうなの重ね持つ児手柏に面並べん
篠むらや三上が嶽を見わたせば一夜のほどに雪の積れる
いかばかり涼しかるらん仕へ来て御裳濯川を渡る心は
とく行きて神風恵む御戸開け天の御影に世を照らしつつ
神風にしきまく垂のなびくかな千木高知りて執り治むべし
新古今集・神祇
宮柱下つ岩根に敷き立ててつゆも曇らぬ日の御影かな
千木高く神漏伎の宮葺きてけり杉の本木を生剥ぎにして
世の中を天の御影の内になせ荒潮浴みて八百合の神
今もされな昔のことを問ひてまし豊葦原の岩根木の立ち