きのふこそ夏は暮れしか朝戸出の衣手さむし秋の初風
霧たちて秋こそ空に来にけらしふきあげの濱の浦のしほかぜ
うちはへて秋は来にけり紀の国やゆらのみ崎の海人のうけ縄
吹風は涼しくもあるかをのづから山の蝉鳴て秋は来にけり
すむ人もなき宿なれど荻の葉の露をたづねて秋は来にけり
野となりてあとは絶えにし深草の露のやどりに秋は来にけり
秋ははやきにける物をおほかたの野にも山にも露ぞおくなる
ながむれば衣手さむし夕づく夜さほの川原の秋の初風
天の川みなはさかまきゆく水のはやくも秋の立ちにけるかな
ひさかたの天の河原をうちながめいつかとまちし秋も来にけり
新勅撰集
彦星の行合をまつ久方の天の河原に秋風ぞ吹く
夕されは秋風涼したなばたの天の羽衣たちや更ふらん
天の川霧たちわたる彦星の妻むかへ舟はやも漕がなん
こひこひて稀にあふ夜の天の川河瀬の鶴は鳴かずもあらなん
七夕の別ををしみあまの川安の渡にたづも鳴かなん
いまはしも別れもすらし棚機の天の河原にに鶴ぞ鳴なる
天の原雲なきよゐにひさかたの月さへわたるかささぎの橋
秋風に夜のふけ行けばひさかたの天の河原に月かたふきぬ
ながめやる軒のしのぶの露の間にいたくな更けそ秋の夜の月