いせの海や浪にかけたる秋の夜の有明の月に松風ぞ吹く
須磨のあまの袖ふきかへすしほ風にうらみてふくる秋の夜の月
塩釜の浦ふく風に秋たけて籬が島に月かたぶきぬ
天の原ふりさけ見ればます鏡きよき月夜に雁鳴きわたる
むば玉の夜はふけぬらし雁がねのきこゆるそらに月かたぶきぬ
鳴き渡る雁のはかぜに雲きえて夜ふかき空にすめる月かげ
九重の雲井をわけて久方の月のみやこに雁ぞ鳴くなる
あまの戸を明がたの空に鳴く雁のつばさの露にやどる月かげ
新勅撰集
わたのはら八重のしほぢにとぶ雁のつばさのなみに秋風ぞふく
ながめやる心もたえぬ和田の原八重のしほぢの秋の夕ぐれ
秋風に山とびこゆる初雁のつばさにわくる峯の白雲
足引の山とびこゆる秋の雁いくへの霧をしのぎ来ぬらむ
雁がねは友まどはせり信楽やまきの杣山霧たたるらし
夕されば稲葉のなびく秋風に空とぶ雁のこゑもかなしや
かりのゐる門田のいな葉うちそよぎたそがれ時に秋風ぞふく
久かたのあまとぶ雁の涙かもおほあらき野の笹が上の露
秋田もる庵に片しく我袖に消あへぬ露のいくよをきけむ
かくて猶たえてしあらばいかがせん山田もる庵の秋の夕ぐれ
から衣いな葉の露に袖ぬれて物思へともなれるわが身は
山田もる庵にしをれば朝な朝なたえず聞きつるさをしかのこゑ