つまきをる便りにみれば片岡の松の絶え間にかすむふるさと
しめてけり朝餉のけぶり立ちそめて隣となれる杉のいほかな
心をぞ浮きたるものと恨みつる頼む山路も迷ふ白雲
この里は雲の八重たつ峰なれや麓にしづむ鳥のひとこゑ
待つ人の標ばかりのしをりせばかへりはつべき身とや知られむ
君が代に出でむ朝日を思ふかな五十鈴川原の春のあけぼの
明らかに昔のあとを照らさなむ今もくもゐの月ならば月
神をあがめ法をひろむる世ならなむさてこそしばし國を治めめ
はかなくも花のさかりを思ふかな憂き世の風は休む間もなし
さてもさは澄まば澄むべき世の中の人の心の濁りはてぬる
思ひ遂げばこの世はよしや露霜を結び消えける行く末の夢
我ながら心のはてを知らぬかな捨てがたき世のまだいとはしき
人の世は思へばなべて化野の蓬がもとの一つ白露
おほかたに夢をこの世と見てしがな驚かぬこそ現なりけれ
山寺のあかつきかたの鐘の音に長きねぶりを覚ましてしがな
月のすむ都は昔まどひいでぬいくよか暗き道をめぐらむ
心こそ憂き世のほかの宿なれど住むことかたき我が身なりけり
さりともと光は残る世なりけり空ゆくつきひ法のともしび
水上に頼みはかけき佐保川の末の藤波なみにくたすな
和歌の浦の契もふかし藻鹽草しづまむよよを救へとぞおもふ