尋ぬべき海山とだに頼まねばげに恋路こそ別れなりけれ
おもほえず今やのにすむ蟲の名も人をうらみのねにかへりつつ
そのかみに絶えなましかば注連縄のかくひきはへて物は思はじ
見し人の袖にうきにし我がたまのやげて虚しき身とやなりなむ
恋ひ死なむ我が世のはてに似たるかなかひなくまよふ夕暮の雲
もろともに出でし空こそ忘られね都のの山の有明の月
菅原や伏見にむすぶ笹まくら一夜の露も絞りかねつる
岩がうへの苔のさむしろ露けきに有らぬ衣を敷ける白雲
また知らぬ山より山に移り来ぬ跡なき雲のあとを尋ねて
袂こそ汐汲むあまの友ならめ同じ藻屑の烟たてつる
また人の結び捨てつる野邊の草ならぶ枕と見るかひぞなき
忘られず都の夢やおくるらむ月は雲井を宇津の山越え
高砂の松も別れや惜しむらむ明けゆく波に嵐たつなり
清美潟ひとりいはねの秋の夜に月も嵐も頃ぞ悲しき
ふるさとに主やいづくと人とはばあづまのかたを夕暮の空
み吉野の真木たつやまに宿はあれど花見がてらの訪れもなし
をりをりのみ山をいづる鳥のこゑ眺めわびぬと人につげこせ
山ふかみ露おく袖に影みえて木の間わけゆく有明の月
山かげや友をたづねし跡ふりてただいにしへの雪の世の月
おのれだに絶えず音せよ松の風はなも紅葉も見ればひととき