月やどす露のよすがに秋暮れて頼みし庭は枯野なりけり
猪名の山みちのささはら埋もれて落葉がうへに嵐をぞきく
もりかはる軒端の月に雲すぎて時雨をのこす庭の松風
消えかへり岩間にまよふ水の沫のしばし宿かる薄氷かな
こよひたれ眞菅かたしき明かすらむそがのかはらに千鳥なくなり
枕にも袖にも涙つららゐて結ばぬ夢をとふ嵐かな
麓ゆく井堰の水や氷るらむひとり音する嵐山かな
山人の袖になれたる松のかぜ雪げになればいとどはげしき
浮雲を峰に嵐の吹きためて月のなごりを雪とみるかな
限りありて春あけがたになる年を宮も藁屋も急ぎくらしつ
おほかたに眺めし暮れの空ながらいつよりかくは思ひそめけむ
それもなほ風のしるべはあるものを跡なき波の舟の通ひ路
にほとりの隠れもはてぬさざれ水したに通はむ路だにもがな
まきの戸も鎖さで更け行くうたたねの袖にぞ通ふ道芝の露
たがためぞ契らぬ夜半を臥しわびて眺め果てつる有明の月
訪ふべしと待たぬものゆゑ萩の葉によなよな露のおき明かすらむ
今こむの宵々ごとに眺むれば月やはおそき長月のすゑ
朽ちぬべき袖の雫を絞りても馴れにし月や影はなれなむ
あかつきの嵐にむせぶ鳥の音に我もなきてぞ起き別れにし
秋の田の仮寝のはても白露に影みしほどや宵のいなづま