よろづよと月をあかなくちぎるかなあま照らします神に祈りて
金葉集・秋
照る月の岩間の水にやどらずは玉ゐる數をいかでしらまし
夕さればかつ山のはを眺めつつあしまの水の月をまつかな
旅ねするあしのこやにてみるときも面変りせぬ秋の月かな
久方の空にかかれる秋の月いづれの里も鏡とぞ見る
月かげに色も変らぬ白菊はわれありがほににほふなるかな
秋ふかみ山かたぞひに家居せし鹿のねさやになけばかなしも
うつろへば錦にまがふ色をみてむべむら菊と人はいひけり
菊の咲く谷の流れをくむ人や多くの秋をすぎむとすらむ
新古今集
ふるさとに衣うつとはなく雁や旅の空にもなきてつぐらむ
秋霧は木の間も見へずたちにけりこれやくらぶの山路なるらむ
もみぢばをふきこす風はたつた山みねの松にも錦織りかく
高砂の尾上の鹿をこぐ船はうらがなしくやすぎがてになく
紫の深からざりし秋だにも心は菊にそめてしものを
おほゐ川たぎつせもなく秋深みもみぢの淵となりにけるかな
あさりする渡りなりせば大井川もみぢをかづく海人やあらまし
もみぢばの流れもやらぬ大井川すむ人さへにあはれとぞ見し
金葉集・秋
山守よ斧の音高くひびくなり峯のもみぢはよきてきらせよ
新古今集・冬
ちりかかるもみぢ流るる大井川いづれ井ぜきの水のしがらみ
心せよもみぢの船のふなさしも嵐の山のわたりわたらば
もみぢばも行きややらぬと大井川うづまく淵にちりかからなむ
奥山の秋の深さを来てみればそばもまさきももみぢしにけり