ものをこそ言はねど花も情あれば咲くべき程を過しやはする
くまもなき月ばかりをや眺めまし散りくる花のかげなかりせば
恨みじな山のはかげの櫻花をそく咲けどもをそく散りけり
金葉集・春
水上に花や散るらむ山川の堰杙にいとどかかるしらなみ
岸近みかはづぞすだく山吹のかげさへちると見るやわびしき
百敷のみかきのはらの櫻花春したえずはにほはざらめや
花により多くの春をちぎりつつ古きおきなになれるわが身ぞ
新古今集
山ふかみ杉のむらだちみへぬまで尾上の風に花の散るかな
ふるさとの花のさかりはすぎぬれどおもかげさらぬ春の空かな
金葉集・夏
賎の女が葦火たくやも卯の花の咲きしかかればやつれざりけり
かみ人のいはひかくなる葵草いとど栄えむしるしとぞみる
君のみや心ふかみの花と見るわがおもかげにさらぬにほひを
かけてだに思ひやはせしあま人のかづくたまもを葵草とは
金葉集・夏玉柏庭に葉廣になりにけりこやゆふしでの神まつるころ
早苗とる山田のかけひこもりけりひくしめなはに露ぞこぼるる
澤水に衛士のおりひくあやめ草きみがうてなにいはひふくらし
あかなくに散りにし花のいろいろは残りにけりな君がたもとに
金葉集・夏
よろづよに変らぬものは五月雨の雫にかほるあやめなりけり
待たできく人もやあらむ郭公なかぬにつけて身こそしらるれ
三島江の入江のまこも雨ふればいとどしほれてかる人もなし
金葉集・夏
ほととぎす雲路にまどふ声すなりをやみだにせよ五月雨の空
関路にてほのめきつればほととぎすただ一声や家づとにせん
夕されば雲路すぐなるほととぎす夜半にやなかむみ山べの里