中務
夏衣たちきる今日は花櫻かたみの色をぬぎやかふらむ
源師賢朝臣
我のみぞ急ぎたたれぬ夏衣ひとへに春を惜しむ身なれば
藤原盛房
夏山の青葉まじりの遅櫻はつ花よりもめづらしきかな
白河院御製
おしなべてこずゑ青葉になりぬれば松の緑もわかれざりけり
大納言経信
玉かしは庭も葉広になりぬればこやゆふしでて神まつる頃
永成法師
やかつ神まつれる宿のしるしには楢の廣葉のやひらでぞ散る
春宮大夫公実
雪の色をうばひて咲ける卯の花に小野の里人冬ごもりすな
大蔵卿匡房
いづれをか分きてとはまし山里の垣根つづきに咲ける卯の花
源相方朝臣
年をへてかよひなれにし山里の門とふばかり咲ける卯の花
江侍従
雪としもまがひもはてじ卯の花は暮るれば月の影かとも見ゆ
摂政左大臣忠通
卯の花の咲かぬ垣根はなけれども名に流れたる玉川の里
權中納言実行
神山のふもとに咲ける卯の花は誰がしめ結ひし垣根なるらむ
大納言経信
賤のめが葦火たく屋も卯の花の咲きしかかればやつれざりけり
修理大夫顕季
み山いでてまだ里なれぬほととぎす旅の空なるねをや鳴くらむ
藤原節信
今日もまた尋ねくらしつ郭公いかで聞くべき初音なるらむ
摂政左大臣忠通
郭公すがたは水にやどれども聲はうつらぬ物にぞありける
左京大夫経忠
年ごとに聞くとはすれど郭公こゑはふりせぬ物にぞありける
藤原顕輔朝臣
郭公こころも空にあくがれて夜がれがちなるみ山邊の里
藤原孝善
郭公あかで過ぎぬる聲によりあとなき空を眺めつるかな
權僧正永縁
聞くたびにめづらしければ郭公いつも初音の心地こそすれ