あかつきに なりにけらしな ほととぎす ゆふつげ鳥と ともに鳴くなり
住吉の 松の緑は 神さびて 千代のかげこそ ここにみえけれ
呉竹の うかりしふしは 忘られて この後の世を いまは頼まむ
白雲の たちゐる雲の 苔莚 わがかたしきの 袖かとぞおもふ
まことにや よもぎが島に 通ふらむ 鶴にのるてふ 人に問はばや
新古今集・羈旅
白露の かかる旅寝も ならはぬに 深き山路に 日は暮れにけり
濡れ衣と いふにつけてや ながれけむ あふくま川の 名こそ惜しけれ
宮城野の 秋の萩原 わけゆけば うは葉の露に 袖ぞ濡れぬる
逢坂は 越えにしものを 今はただ なこその関の なこそつらけれ
今はみな 橋柱さへ 朽ち果てて 浜名ばかりを ききわたるかな
追ひ風に いだてに走れ つくし舟 しきなみのせき せきとどむとも
このもとに 旅寝しつべし しらくもの しらぬ山路は 夢に見えつつ
にはとりの ひなの別れの 悲しきに あかつきごとに ねをやなくらむ
月入ると 嘆きし山に 来て住めば なほ西へゆく ものにぞありける
ひたふるに 山田の中に 家居して すだく牡鹿を 驚かすかな
かぞいろの すみしあれたる やどなれば あはれ昔ぞ 恋ひしかりける
長き夜の 夢のうちにて 見る夢は いづれうつつと いかでさだめむ
夢よりも 儚く見ゆる 世の中を など驚きて そむかざるらむ
今はただ 西にこころを かけ草の 葉に置く露を わが身とぞ思ふ
住吉の 神にぞ祈る 松の葉の 数知らぬまで 君が御千代を
金葉集・夏
聞くたびに めづらしければ 郭公 いつも初音の 心地こそすれ
金葉集・秋
もろともに 出づとはなしに 有明の月のみ 送る山路をぞゆく
金葉集・雑歌
ゆくすゑの ためしと今日を 思ふとも いまいくとせか 人に語らむ
金葉集・雑歌
夢にのみ 昔の人を 逢ひ見れば 覚るほどこそ 別れなりけれ
金葉集・雑歌
あひがたき 法をひろめし 聖こそ うち見し人も みちびかれけれ
金葉集・雑歌
たらちねは 黒髪ながら いかなれば この眉白き 糸となりけむ
金葉集・雑歌
いかにして 衣の珠を 知りぬらむ 思ひもかけぬ 人もある世に
詞花集・別離
たち別れ 遙かにいきの 松なれば 恋しかるべき 千代のかげかな
千載集・雑歌
夢とのみ この世のことの 見ゆるかな 覚むべきほどは いつとなけれど
新古今集・冬
中々に 消えは消えなで 埋火の 生きてかひなき 世にもあるかな
続後撰集・羈旅
老てこそ いとどわかれは 悲しけれ またあひみむと いふべくもなし