和歌と俳句

永縁

やまふしの 苔の衣の うすければ 冬なりぬる 今日ぞ悲しき

いかにして 時雨は色も 見えなくに からくれなゐに 紅葉そむらむ

風寒み 冬の夜すがら 置く霜の 朝日山には とけやしぬらむ

冬の夜を 寝覚めてきけば 片岡の 楢の枯葉に 霰ふるなり

霜枯れの 菊のふるえに 雪ふれば またうつろはぬ 花ぞ咲きける

霜枯れの 葦刈る人の やどなれば 八重垣にして すまふなりけり

沖つ風 吹上の浜の 寒ければ 冬の夜すがら 千鳥鳴くなり

冬深み 難波の舟は 通はじな あしまの氷 解くべくもなし

冬の夜の つがはぬをしの 浮き寝には うは毛の霜も とくるなりけり

神無月 宇治の網代の 氷魚よりも 年のよるこそ あはれなりけれ

庭火には とる榊葉に 置く霜も とけやしぬらむ 神のこころも

とやかへる たなれの鷹を 手にすゑて きぎす鳴くなる 交野へぞ行く

小野山に 煙絶えせぬ 炭竃を 室の八島と おもひけるかな

人知れず しのぶ心は 埋火の 上はつれなき ここちこそすれ

春来るは 待たれしものを 老いぬれば こよひの明けむ ことぞ悲しき

池水の 深き心を 年経とも いひいださずば いかが知らさむ

しのすすき 穂にいでぬ恋の 苦しきは 露けけれども 知る人もなし

みそめてし 日より袂の かわかねば いつをいつとか 待たむとすらむ

錦木の 千束にけふや なりぬらむ 寝なくに夢に 逢ひ見つるかな

明けつらむ 空さへ今朝は 辛きかな 天の岩戸を 今ぞ鎖せかし

ありし世や 浦島が子の 箱ならむ あけにし日より 逢ふことのなき

いづくにも 恋はせしかど 旅衣 草の枕は 露けかりけり

露けさは ことわりなりや 夏草の 思ふことのみ しげき身なれば

夢をだに あひもおもはぬ 君ゆゑに よるよる嘆き あかしつるかな

見るままに 人の心の ありしにも あらずなるとの うらめしきかな