摂政左大臣忠通
色も香もむなしと説ける法なれば祈るしるしはありとこそ聞け
三宮輔仁親王
見しままに我はさとりを得てしかな知らせでとると知らざらめやは
行尊僧正
いさぎよき空のけしきを頼むかな我まどはすな秋の夜の月
静巌法師
心にはいとひ果てつと思ふらむ哀れいづくもおなじ憂き世を
選子内親王
あみたぶと唱ふる聲に夢さめて西へ流るる月をこそ見れ
皇后宮肥後
教へおきて入りにし月のなかりせばいかで心を西にかけまし
清海聖人
かくばかり東風てふ風の吹くを見てちりのうたがひおこさずもがな
覚樹法師
命をも罪をも露にたとへけり消えばともにや消えむとすらむ
僧正静圓
吹き返す鷲の山風なかりせば衣の裏の玉を見ましや
瞻西聖人
法のため荷ふ薪にことよせてやがてこの世をこりぞ果てぬる
皇后宮權大夫師時
けふぞ知る鷲の高嶺に照る月を谷川くみし人のかげとは
權僧正永縁
あひがたき法をひろめし聖こそうち見し人もみちびかれけれ
權僧正永縁
たらちねは黒髪ながらいかなればこの眉白き糸となりけむ
懐尋法師
憂き世をしわたすと聞けばあまを舟のりに心をかけぬ日ぞなき
權僧正永縁
いかにして衣の珠を知りぬらむ思ひもかけぬ人もある世に
懐尋法師
いつをいつと思ひたゆみてかげろふのかげろふ程の世を過ぐすらむ
証成法師
夜とともに心のうちに住む月をありと知るこそはるるなりけれ
珍海法師母
今日もなほ惜しみやせまし法のため散らす花ぞと思ひなさずは
和泉式部
あさましや剣の枝のたわむまでいかなる罪のなれるなるらむ
田口重如
草の葉にかどではしたりほととぎす死出の山路もかくや露けき
田口重如
たゆみなく心をかくる彌陀ほとけ人やりならぬ誓たがふな
源俊頼朝臣
阿弥陀仏と唱ふる聲を舵にてや苦しき海を漕ぎ離るらむ