上東門院
にごりなき亀井の水をむすびあげて心の塵をすすぎつるかな
橘能元
うらやまし憂き世をいでていかばかりくまなき峰の月を見るらむ
返し 僧都頼基
もろともに西へや行くと月影のくまなき峰をたづねてぞ来し
大江正言
思ひ出でもなきふるさとの山なれど隠れゆくはた哀れなりけり
藤原兼房朝臣
まことにや人のくるには絶えにけむ生野の里の夏引きの糸
源道済
行く末のしるしばかりに残るべき松さへいたく老いにけるかな
太宰大弐長実
住吉の松のしづ枝を昔よりいくしほそめつ沖つ白波
源俊頼朝臣
いくかへり花咲きぬらむ住吉の松も神代のものとこそ聞け
六條右大臣北方
早くより頼みわたりし鈴鹿川おもふことなる音ぞきこゆる
摂津
琴の音や松吹く風にかよふらむ千代のためしにひきつべきかな
返し 美濃
うれしくも秋のみやまの松風にうひ琴の音のかよひぬるかな
内大臣家越後
琴の音は月の影にもかよへばや空にしらべのすみのぼるらむ
大中臣顕弘
たまくしげ二見の浦のかひしげみまきゑに見ゆる松のむらだち
大納言経信
白雲とよそに見つればあしひきの山もとどろき落つる瀧つせ
よみ人しらず
天の川これや流れの末ならむ空よりおつる布引の瀧
藤原惟規
神垣は木のまろどのにあらねども名乗をせねば人とがめけり
六條右大臣北方
神垣のあたりと思ふにゆふだすき思ひもかけぬ鐘のこゑかな
内侍
返さじとかねて知りにき唐ごろも恋しかるべき我が身ならねば
藤原顕輔朝臣
家の風吹かぬものゆゑはづかしの森の木の葉を散らしつるかな