和歌と俳句

藤原定家

藤川百首

山里の竹よりほかの我が友はよる鳴く鹿の庭のくさぶし

露霜のおくての山田吹く風のもよほす方に衣打つなり

ゆふ霧のこととひわびぬ隅田川わが友舟もありやなしやと

宮城野はこの下露もほしはてて拂ひもやまぬ四方の秋風

乱れおつる萩のまがきの下露に涙色あるまつむしのこゑ

山河のしぐれてはるるもみぢ葉にをられぬ水も色まさりつつ

山めぐる時雨の奥のもみぢ葉のいくちしほとか焦がれ出づらむ

秋風のうら葉にためぬ白露のしをらでひたすあさがほのはな

大井川ゐせきの浪の花のいろをうつろひ捨つる岸の白菊

また人のとはぬもうれし草木だになれては惜しき秋のなごりを

けふそへにさこそ時雨のおとづれて神無月とはひとに知らるる

朝霜のをかの紅葉はおもひ知れおのが下なる苔のこころを

まきのやに霰の音もとだえつつ風のゆくへになびくむらくも

むかしへやなに山姫の布さらす跡ふりまがへつもる初雪

わが宿は今日こむ人に忘られぬ雪のこころに庭をまかせて

住吉の松やいづこと降る雪にながめもしらぬとほつふなびと

蘆の葉も下をれはてて三島江の入江の月にかげもさはらず

鳰のうみや月待つ浦の小夜千鳥いづれの島をさして鳴くらむ

おきとめず松をあらしの拂ふ夜は鴨の青羽の霜ぞかさなる

今いくか打ち出づる波の初花も谷の氷の下に待つらむ