おもひあまりその里人にこととはむ同じをかべの松はしるやと
秋の霜に移ろふ花の名ばかりもかけずよ蟲の鳴く音ならねば
眼もはるにもえては見えじ紫の色こき野邊の草葉なりとも
ゆきかへり逢ふせも知らぬみそぎ川悲しきことは數まさりつつ
立田山木の葉のしたのかりまくら交はすもあだに露こぼれつつ
今夜だにくらぶの山の宿もがなあかつき知らぬ夢やさめぬと
朝露は笹分くる袖も干しかねて夢かうつつかとふひともなし
よそ人は何なかなかの夢ならで闇のうつつの見えぬ面影
秋かけて降りしく木の葉いくかへり空しき春の色にも見ゆらむ
たがまこと世のいつわりのいかならむ頼まれぬべき筆の跡かな
たちなびく烟くらべに燃えまさる思ひの薪身はこがれつつ
いろに出でていひなしぼりそ櫻戸のあけながらなる春の袂を
道のべのゐでの下帯ひきむすび忘ればつらし初草の露
おもひやれ葎の門のさしながらきて帰るさの露のころもで
いかにせむ頼めし里を住の江の岸に生ふてふ草にまがへて
ながかれよあらば逢ふ世を手向けして年のを祈る杜の注連縄
わたつみやいく浦々に満つ潮の見らく少なきなかの通ひ路
かりそめのたがなのりそに靡くらむわが身の方は絶えぬ烟を
あふひぐさ人のかざしかとばかりも名をだにかけて問ふ方もなし
もしほぐさ蜑のすさびもかき絶えぬ里のしるべの心くらべに