和歌と俳句

西行

旅寝する 草の枕に 霜さえて 有明の月の 影ぞ待たるる

冬枯れの すさまじげなる 山里に 月の澄むこそ あはれなりけれ

月出づる 峰の木の葉も 散りはてて 麓の里は うれしかるらん

花におく 露にやどりし 影よりも 枯野の月は あはれなりけり

氷しく 沼の蘆原 かぜ冴えて 月も光ぞ さびしかりける

霜さゆる 庭の木葉を ふみ分けて 月は見るやと 訪ふ人もがな

冴ゆと見えて 冬深くなる 月影は 水なき庭に 氷をぞ敷く

木の間洩る 月の影とも 見ゆるかな はだらに降れる 庭の白雪

立ち昇る 朝日の影の さすままに 都のは 消えみ消えずみ

枯れはつる 萱が上葉に 降るは さらに尾花の 心地こそすれ

たゆみつつ 橇の早緒も 付けなくに 積りにけりな 越の白雪

降る雪に しをりし柴も 埋もれて 思はぬ山に 冬籠りぬる

雪深く 埋みてけりな 君来やと もみぢの錦 敷きし山路を

わが宿に 庭よりほかの 道もがな 訪ひこん人の 跡付けて見ん

雪埋む 園の呉竹 折れ伏して ねぐら求むる 村雀かな

裏返す 小忌の衣と 見ゆるかな 竹の末葉に 降れる白雪

玉垣は 朱も緑も 埋もれて おもしろき 松の尾の山

何となく 暮るるしづりの 音までも 雪あはれなる 深草の里

雪降れば 野路も山路も 埋もれて をちこち知らぬ 旅の空かな

卯の花の 心地こそすれ 山里の 垣根の柴を 埋む白雪

瀬戸渡る たななし小舟 心せよ みだるる しまきよこぎる

ただはおかで 枝を伝へる あられかな つぼめる花の 散る心地して

淡路島 磯わのちどり 聲しげし せとの鹽風 冴えまさる夜は

あはぢ島 せとの汐干の 夕ぐれに 須磨よりかよふ 千鳥なくなり

霜さえて 汀更けゆく 浦風を 思ひしりげに 鳴く千鳥かな