和歌と俳句

西行

さゆれども 心やすくぞ 聞きあかす 河瀬のちどり 友ぐしてけり

八瀬渡る 湊の風に 月更けて 潮干る潟に 千鳥鳴くなり

千鳥なく 繪嶋の浦に すむ月を 波にうつして 見る今宵かな

岩間ゆく 木の葉わけこし 山水を つゆ洩らさぬは なりけり

水上に 水やを むすぶらん 繰るとも見えぬ 瀧の白糸

氷わる 筏の棹の たゆければ もちやこさまし 保津の山越

ひとり住む 片山陰の 友なれや あらしに晴るる 冬の山里

さゆる夜は よその空にぞ 鴛鴦も鳴く 氷りにけりな 昆陽の池水

よもすがら 嵐の山は 風さえて 大井のよどに 氷をぞしく

さえわたる 浦風いかに 寒からん 千鳥むれゐる 木綿埼の浦

山里は しぐれし頃の さびしさに あられの音は やまさりけり

新勅撰集・冬
風さえて よすればやがて 氷りつつ かへる波なき 志賀の唐崎

吉野山 ふもとに降らぬ 雪ならば 花かと見てや 尋ね入らまし

山ごとに さびしからじと 励むべし けぶりこめたり 小野の山里

山櫻 おもひよそへて ながむれば 木ごとの花は 雪まさりけり

降り埋む 雪を友にて 春までは 日を送るべき み山べの里

訪ふ人は 初雪をこそ 分け来しか 道閉ぢてけり 深山辺の里

年の内は とふ人更に あらじかし 雪も山路も 深き住家を

わりなしや こほるかけひの 水ゆゑに 思ひ捨ててし 春の待たるる

常よりも 心ぼそくぞ 思ほゆる 旅の空にて 年の暮れぬる

新しき 柴の編み戸を 立てかへて 年の明くるを 待ちわたるかな

年暮れて その営みは 忘られて あらぬさまなる 急ぎをぞする

おしなべて おなじ月日の 過ぎゆけば 都もかくや 年は暮れぬる

新古今集
おのづから いはぬを慕ふ 人やあると やすらふほどに 年の暮れぬる

いつかわれ 昔の人と いはるべき 重なる年を 送り迎へて